馬乳酒について

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文字数:約2100文字

 テレビの旅番組などで馬乳酒が少し登場することがある。
しかし、日本で実際に馬乳酒を飲んだことがある人は少ない。
馬乳酒とはどのようなものなのか、産地や原料、つくり方、味わいなどをまとめた。

馬乳酒

馬乳酒とは

 そもそも馬乳酒とは、馬の乳を原料として、発酵させたお酒である。

・馬乳酒の産地

馬
Pete LinforthによるPixabayからの画像

 馬乳酒の有名な産地は、モンゴルである。
他にも中央アジアの国々(ロシア、カザフスタン、キルギスなど)でも造られている。

 産地によって呼び名が違い、モンゴルでは『アイラグ』カザフスタンやキルギス、ロシアでは『クミス』である。

・馬乳酒の原料

馬乳
PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像

 馬乳酒は馬乳から造るのだが、お酒の種類の中ではとても珍しい。
というのも、普段よく目にするお酒は植物性の原料から造られる。
しかし馬乳酒は動物性原料から造られる

 日本酒は米、ビールは麦、ワインはブドウ、他にもサトウキビ、小麦、ライ麦、トウモロコシ、芋、竜舌蘭、そば、リンゴ、蜂蜜、、、、
これらは全て、植物性の原料である。

 お酒は糖をアルコールに分解することでできる。
原料に含まれるデンプンをブドウ糖に代えたり、果糖をそのままアルコール分解したりするのである。

 では馬乳の糖とは何かというと、乳糖である。
乳糖はラクトースとも呼ばれ、二糖類に分類される(ちなみにブドウ糖(グルコース)は単糖類)。
牛や山羊やラクダなどの乳や、母乳にも含まれている。

 つまり、牛乳や羊乳でもお酒は造れるのである。
しかし、多くの場合が馬乳から造られる。
その理由は、馬乳からは加工品(チーズ、ヨーグルトなど)がつくりづらいからである。

チーズとヨーグルト

 馬乳は、他の乳に比べて脂肪やタンパク質が少なく乳糖が多い(馬乳6%、牛乳5%)という特徴がある。
乳を加工するのは長期保存するためであり、牛や羊の乳からチーズやヨーグルトをつくり、馬乳からはお酒を造るという、適材適所の考え方である。

 馬乳は他の乳に比べて乳糖が多いが、植物性原料に比べると糖の量が少ないため、馬乳酒のアルコール度数は2%前後である。
アルコールの素となる糖の量が醸造によるアルコール度数を左右する。

・馬乳酒のつくり方

馬の授乳
Jean Louis TosqueによるPixabayからの画像

 まず馬から乳搾りがされる。
モンゴルで馬が出産するのは初夏の頃であり、馬乳が搾れるのは初夏から初秋にかけてである。

 搾った馬乳とスターター(酒母)は容器に入れられ、攪拌される。
容器はポリタンクが現代の主流であるが、伝統的には牛の皮や胃でつくったフフルという袋を使う。

 スターターは日本酒でいうところの酒母にあたる。
これは前回造った馬乳酒を保管していたものや、穀物から造るもろみなどが使われる。
馬乳酒を造る家庭によってかなり違いがある。

 主に乳糖をアルコール分解できる酵母と、乳酸菌によって馬乳酒が造られる。
糖はアルコールと二酸化炭素に分解されるため、できあがりは微発泡性がある。

・馬乳酒の味わい

モンゴル
David MarkによるPixabayからの画像

 馬乳酒の味わいは少し酸味があり、微発泡で、低アルコールである。

酸味は主に乳酸菌によるものであるが、製造環境が清潔な密閉空間ではないため、少なからず野性の菌も作用している。

 微炭酸なのは、そもそもの糖が少ないため、強炭酸とはならない。
同様の理由で、アルコール度数も2%前後である。

 アルコール度数が低いため、モンゴルでは子供のころから馬乳酒を健康飲料として摂取している。
馬乳に含まれる栄養素と、発酵による栄養素が人体に良い効能を与えるとされる。

 日本人には苦手な味わいだという人が多い。
常温よりも冷やして飲むほうが日本人の舌には合うかもしれない。

 馬乳酒は製造環境(家庭環境)によって味わいが大きく違ってくる。
また、経過時間によっても発酵が進むため、酸味が変わる。
それぞれの家庭に、それぞれの味があるようだ。

 日本では本場の馬乳酒を飲むことは難しい
生の発酵品なので、品質管理が非常に困難なためである。
現代の冷凍技術を駆使すれば輸送は可能だが、そのコストを賄う需要がない。

 日本でもモンゴル料理店などでは自家製の馬乳酒を置いている店がある。
たま、馬乳酒ではなく、牛乳のお酒はネットで購入することができる。
しかし、馬乳酒とは全くの別もののようだ。

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・馬乳酒とカルピスの話

カルピス
https://www.calpis.info/

 カルピスの原点は馬乳酒にあると言われている。
味わいは全く違うが、そのエピソードを見てみよう。

 カルピスの生みの親である、三島海雲氏は24歳の時(1902年)に英語教師として中国に渡る。
その後、北京で雑貨貿易商を設立し、仕事で内モンゴルに行く。

 長旅で疲れきっていた三島氏に、現地の遊牧民は酸乳とういう飲み物を勧める。
酸乳を飲むと体調が回復し、すっかり元気になったという。
この酸乳が馬乳酒であるといわれている。

 37歳の時(1915年)に中国事業を手放し、日本へ帰国する。
内モンゴルで学んだ酸乳の製法をさらに研究して、乳酸菌商品を開発する。
さらに研究を続け、41歳の時(1919年)に『カルピス』を発売する。

初代カルピス
https://www.calpis.info/knowledge/history/

あとがき

 旅番組で馬乳酒が出てくると、飲んでみたいと思う人は多いのではないだろうか。
馬乳酒は動物性原料を使ている造られる特殊性が興味深い。
馬乳酒に限らず、やはり現地のお酒というものは魅力的である。
国内外問わず、旅行の際は地酒を堪能したいものだ。

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