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ジンの歴史『波乱万丈、狂った時代も超えて』

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文字数:約1600文字

 お酒にはそれぞれに様々な歴史があるが、ジンほど波乱万丈な歴史はないだろう。
ジンは、『オランダが生み、イギリスが育て、アメリカが洗練した』と言われる。

 そして現在、クラフトジンブームによって、新たな歴史の真っただ中にある。
そんなジンの歴史を見てみよう。

●ジンの起源

ジン
Sasa StankovicによるPixabayからの画像

 他のお酒と同様に、ジンがいつ、どこで、誰が造り始めたのかはわかっていない。
13世紀のフランドル地方(ベルギー西部、フランス北部、オランダ南部を含む地域)の資料に、
ジンの原料であるジュニパーベリーを使ったお酒の記述がある。

 そこにはジュニパーベリー(Juniper Berry)を意味するオランダ語で
イエネーフェル(Jenever)のことが書かれている。

 このイエネーフェルが、ジンの原形であるジュネヴァ(Jenever)である。
ジュネヴァがイギリスに伝わり、「Genever」と表記されるようなる。

 その後、イギリス産のジンは、オランダの「Genever」と区別するために
「Geneva」と表記される。
そして短くすることで呼びやすくなったものが「ジン(Gin)」である。

●ジンの歴史年表

・17世紀(狂気のジン時代)まで

フランドル地方
  • 1269年
     フランドルの詩人ヤーコブ・ファン・マールラントが
     「自然の花 Der Naturen Bloeme」にジュニパーが主原料の強壮剤の記述をする
  • 1495年
     ネーデルラントで発行された書籍に、
     ジュニパーを使用した蒸留酒のレシピが掲載される
  • 1568年
     オランダ独立戦争(80年戦争)が始まる(~1648年)
     イギリス兵は、オランダ兵がジュネヴァを飲み干してから突撃するのを見て、
     ジュネヴァを「オランダ人の勇気」として称賛する
  • 1581年
     北部ネーデルラント7州(オランダ)がスペインから独立
  • 1602年
     イギリス人発明家ヒュー・プラットの書籍に、ジュニパー飲料として
     「スパイスの蒸留酒」に掲載される
     イギリスでもジュニパーを使った蒸留酒が存在していた
  • 1614年
     アメリカ大陸にオランダ人入植者が、ジュネヴァを持ち込む
  • 1640年
     ドイツの村シュタインハーゲンで、シュタインヘーガーの蒸留所が設立される
  • 1664年
     大手酒類メーカーのボルス社がジュネヴァの製造を始める
  • 1688年
     オランダ総督ウィレム3世が、イギリス国王ウィリアム3世として戴冠し、
     両国に君臨する
     新国王の母国の蒸留酒ジュネヴァがイギリスで浸透し始める
     ドイツ選帝侯によってシュタインヘーガーの製造は、
     シュタインハーゲン村のみに限定し、特産化される。
  • 1689年
     イギリスがフランス産蒸留酒の輸入禁止
  • 1690年
     イギリスの蒸留法改正により、蒸留酒の独占製造が撤廃され、
     誰でも蒸留酒製造が可能になる
     安くて酔える低品質な酒としてジンが広まり、1751年まで激動の時代が続いた
     後にこの時代は「Gin Craze (狂気のジン時代)」と呼ばれることになる

 オランダのジュネヴァドイツのシュタインヘーガーは現在も売られている。
シュタインヘーガーはジュネヴァの系統とは違った流れで、現在に至っている。
これもジンのおもしろいところである。
ジュネヴァもシュタインヘーガーもドライジンとは違った味わいが楽しめる。

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・Gin Craze(狂気のジン時代)

ジン横丁
狂気のジン時代の風刺画
ウィリアム・ホガース『ジン横丁』

 この画像は画家のウィリアム・ホガースが描いた『ジン横丁』という風刺画である。
中央の女性は酔いつぶれて、腕から子供を落としてしまっている。
下段の男性は痩せ細って、骨が浮かび上がっている。
階段の上では赤ちゃんにジンを飲ませようとする光景も。
ベランダからは首を吊る人や、屋根の上から飛び降りる人たちも描かれている。

 この時代、これに近い状況だったのである。
ちなみに『ジン横丁』と対となる『ビール街』という絵には、
富裕層が楽しげにビールを飲む様子が描かれている。
貧困層はビールよりも安い粗悪なジンしか飲めなかったのである。

 Gin Crazeの時代、国は何も対策しなかったわけではない。
1729年から1751年までに6回も規制法を施行している。
ジンの増税、販売免許制、路上販売禁止、違反の高額罰金化など。
しかし密造、密売、偽装などさまざまな手段でジンは造られ、売られ、飲まれた。
現代では考えられないような狂った時代だったのである。

・18世紀(ジンの再起)から

カフェ式蒸留機
ニッカ カフェ式連続式蒸溜機
  • 1760年
     イギリスで産業革命が始まる
  • 1766年
     ドイツでシュタインヘーガーの蒸留所シュリヒテ社創業
  • 1769年
     ゴードン社創業。商品名に生産者名を付けて、品質の良さをアピール
  • 1820年
     チェルシー蒸留所操業開始、ビーフィーター販売
  • 1826年
     スコットランドの蒸留技師ロバート・スタインが連続式蒸留機を発明
  • 1830年
     アイルランドの収税官イニーアス・カフェが連続式蒸留機を改良し、特許取得
     ベルギーがオランダから独立
     タンカレー社創業
  • 1872年
     ギルビー兄弟が蒸留酒製造開始
  • 1906年
     ドライ・マティーニが誕生し、アメリカでドライ・ジンが主流になる
  • 1919年
     ベルギーで、アルコール依存撲滅の目的で、
     公衆酒場での蒸留酒販売が禁止になる(~1985年)
  • 1920年
     アメリカで禁酒法が施行される(~1933年)
  • 1987年
     ボンベイ・サファイア発売。ボタニカルを公開し、ジンに革命を起こす

 カフェ式蒸留機の誕生はジンのみならず、お酒の歴史に刻まれる出来事である。
当時の仕様のカフェ式蒸留機を現在も使っている蒸留所がある。
ニッカウヰスキーの宮城峡蒸溜所がカフェ式連続式蒸溜機を現役で使っている。
「カフェ」の名が付く商品がカフェ式連続式蒸溜機を使用したものである。
機会があれば飲んでみることをおすすめする。

  • ニッカ カフェジン
  • ニッカ カフェウォッカ
  • ニッカ カフェグレーン
  • ニッカ カフェモルト
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●あとがき

 イギリスで起きたGin Crazeの時代は、異常だった。
質の悪い酒だとわかっていても、安いので求めてしまう。
そんなお酒でも飲みたくなる原因は、貧困や不条理からの現実逃避である。
飲み続けてアルコール依存症になり、負のスパイラルに陥ってしまう。
このような激動があるジンの歴史を知ると、ますます面白いお酒だなと思う。

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