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酒神ディオニュソス(バッカス)

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文字数:約1800文字

 お酒の神様として有名なのが、バッカスだろう。
バッカス(Bacchus)は英語名で、ギリシア名ではディオニュソス(Dionysos)という。
ちなみにローマ名はバッコスである。
ディオニュソスはギリシア神話の酒神である。
酒神ディオニュソスについて、説明しよう。

ミケランジェロのバッコス
バルジェロ美術館:ミケランジェロのバッコス

ディオニュソス誕生

 ディオニュソスはお酒と演劇の神といわれる。
お酒は葡萄酒(ワイン)であり、全酒というわけではない。
ギリシア神話がつくられた地域ではお酒=葡萄酒だったのである。
では、ディオニュソスがどのようにして誕生したかみてみよう。

 ディオニュソスの父は大神ゼウス、母は人間のセメレである。
セメレは、フェニキア王の息子でテバイ王のカドモスを父に、
軍神アレスと女神アフロディテの娘ハルモニアを母に持つ。
つまり母セメレは神と人とのハーフであり、ディオニュソスはクォーターとなる。

グイド・レーニ 「酒を飲むバッカス」
グイド・レーニ 「酒を飲むバッカス」

 ゼウスはテバイの王女セメレの美しさに惹かれ、人の姿で迫り、関係を持つ。
セメレが懐妊すると、ゼウスの正妻ヘラが怒り狂い、セメレをそそのかす。
ヘラはセメレに、ゼウスに真の姿を見せてもらうように仕向けたのである。
ステュクの泉の誓約により、ゼウスは真実を答えなければならない。
ゼウスが神の姿を現すと、セメレは雷に焼かれて死んでしまった
人が神を直接見ることは死を意味するのである。

 ゼウスはセメレの遺体から胎児を取り出し、自らの太腿(ふともも)に取り込む
そして月日が経ちゼウスの太腿から出産されたのがディオニュソスである。

嫉妬に駆れるヘラ

 ゼウスはディオニュソスをヘラから守るために、ヘルメスに預ける。
ヘルメスは遠く離れた谷のニンフたちにディオニュソスを育てさせた。
そこで牧羊神パンの息子シレノスに葡萄栽培や酒造りの知識を与えられる
ちなみに牧羊神パンはヘルメスの息子である。

 セメレの子が生きて成長していることを知ったヘラは、
ディオニュソスを見つけ出し、狂気を与える

ジャン=バティスト・グルーズ「バッカスの巫女」
ジャン=バティスト・グルーズ「バッカスの巫女」

 発狂させられたディオニュソスは小アジアを放浪することになる。
発狂しながらも放浪先の国々で葡萄栽培と酒造りを広めていく
そしてプリュギア国の女神キュベレに助けられ、正気を取り戻す。
フリュギア周辺でキュベレは大地母神として、崇め奉られており、
キュベレの祭典』という祭りが行われている。
ここでディオニュソスは祭典の秘儀を学び、独自の祭りを創り上げる。

ディオニュソスの祭り

 ディオニュソスの祭りは酒を飲み、踊り狂い、野性の獣を引き裂き、生肉を食らう
そのような熱狂的な女信者たちがディオニュソスとともに旅を続けた。
旅の目的地は、母セメレの故郷テバイである。

ニコラ・プッサン「バッカスの勝利」
ネルソン・アトキンス美術館:ニコラ・プッサン「バッカスの勝利」

 ディオニュソスは女信者たちを連れて、テバイに到着する。
テバイの時の王ペンテウスは狂信的な女信者たちを見て、嫌悪する。
しかしペンテウスの母であるアガウェがディオニュソスの信者となってしまう。

 激怒したペンテウスは、ディオニュソスを捕らえようとするが、
狂信化した母アガウェに八つ裂きにされてしまう。
実はアガウェは、セメレと姉妹である。
よってディオニュソスとペンテウスは従兄弟となる。
ペンテウス王が亡くなったことにより、テバイは崩壊してしまう。

 このような狂気の祭りから、ディオニュソスは演劇の神ともいわれる。

オリュンポス十二神となる

 ディオニュソスがテバイに来たのは、母セメレを救い出すためだった。
死者は黄泉の国タルタロスに行き着く。
タルタロスは冥界の王ハデスが治める地である。
ディオニュソスは冥界の女王であるペルセポネに花束を贈る。
花好きのペルセポネはとても喜び、ディオニュソスの願いを叶えた。

ラファエロ:神々の会議
ラファエロ:神々の会議

 ディオニュソスは母セメレを地上に連れ戻し、さらに天界へ行き、
父ゼウスに頼んで、セメレを女神にしてもらった。
ゼウスは母親を連れ戻したディオニュソスを、オリュンポス十二神に加えたいと考える。
しかし十二の席はすでに埋まっている。
それを察したかまどの女神ヘスティアが席を譲ったことにより、
ディオニュソスはオリュンポス十二神に加わることになる。
そして天界でもディオニュソスの葡萄酒が飲まれるようになった。

あとがき

 ディオニュソスはテバイを崩壊させるような厳しい顔も持つ。
お酒を飲み過ぎると、不幸をもたらすことを暗示しているようだ。
お酒の神としてはバッカスが有名である。
ギリシア名のディオニュソスよりも英語名のバッカスが広まっているのは、なぜだろうか。
神話には謎がつきものである。