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製麦(モルティング)とは、大麦を発芽させて麦芽を作る工程であり、
ウイスキーの原料づくりにおける重要なステップである。
ここでは製麦の基本的な仕組みと、製麦に関連の深いキーワードである
フロアモルティング、モルトスター、ピートについてを説明する。
ウイスキーの定義や原料については、ウイスキーの定義で解説している。
●製麦(モルティング)とは

製麦(せいばく)とは、大麦を水に浸して発芽させ、
その後乾燥させて麦芽(モルト)を作る工程である。
ウイスキーの原料にはデンプンを多く含み、
窒素の含有率が低い、二条大麦が使われる。
大麦は発芽することでデンプンを糖に分解する酵素を生成する。
糖は発酵工程で酵母によって分解され、炭酸ガスとアルコールになる。
製麦はまず、大麦を水に浸し、空気を与えながら発芽を促す。
一度の吸水には限界があるため、浸水、酸素供給を繰り返す。
ある程度発芽したら、生長を止めるために乾燥させる。
乾燥時に、燃料としてピートなどが使われる。
乾燥後の麦芽から芽を取り除く。
ウイスキー全体の製造工程については、
ウイスキーのつくり方で詳しく解説している。
●製麦の方法(フロアモルティングとモルトスター)
製麦にはいくつかの方法があり、
代表的なものとしてフロアモルティングとモルトスターがある。
これらは作業工程や設備が異なり、麦芽の品質や風味にも影響を与える。
また、乾燥工程で使用されるピートも風味に大きく関わる要素である。
・フロアモルティング
伝統的なモルティングの方法。
水に浸けた大麦を低温多湿の部屋のコンクリート床に敷きつめる。
敷きつめた大麦を大型の木製シャベルで攪拌することで、
大麦に空気を送り、全ての種子の芽を均一に出させること。
発芽し酵素が働きやすくなった状態のものは、グリーンモルトと呼ばれる。
現在ではフロアモルティングを行っている蒸留所は少ない。
以下がフロアモルティングを行っている代表的な蒸留所である。
- ボウモア
- ラフロイグ
- ハイランドパーク
- バルヴェニー
- スプリングバンク
フロアモルティングは昔ながらの手法なので、どうしてもバラツキが出る。
このバラツキを原料ごとの個性ととらえて、製造するかどうかは蒸留所次第である。
・モルトスター

モルトスターとは製麦を専門に行う業者のことである。
蒸留所はモルトスターに、大麦の品種や乾燥時間、ピートの量や種類、
タイミングなどの細かいレシピを渡し、製麦を依頼する。
モルトスターではコンピューター管理により自動的に大麦を攪拌して、
ほとんど人手をかけずに発芽させられる。
フロアモルティングに比べて、
作業効率が良く、安定した品質で、大量に麦芽を生産できる。
モルトスターはスコットランドに十数社が存在し、
生産された麦芽はスコットランド以外にも全世界に輸出されている。
ウイスキー用だけでなく、ビール用にも大麦麦芽は生産されている。
以前はウイスキーを生産していたポートエレン蒸留所は、
ウイスキー生産を完全に停止し、製麦を専門に行い、
モルトスターとして経営している。
しかし、2024年に復活を果たし、新たに生産を開始している。
・ピート

エリカ科の低木ヒース(ヘザー)やシダ、コケ類、草、灌木などが
十分に分解されないまま、粘土状に堆積してできた泥炭。
ピートはアイラ島やヘブリディーズ諸島の島々で、
古くから燃料として使用されてきた。
寒冷地の湿原でピートは生成され、
ピート層が15センチ堆積するのに約1000年かかるといわれる。
スコッチ独特の薫香はこのピートの燻煙によるもの。
土地によってピートに含まれる種類に違いがあり、香りも異なる。
スコットランド本島では、花や草などが主原料のため、花などの香りがつく。
アイラ島では、海藻などが主原料のため、
海藻に含まれるヨウ素による、薬品臭やヨード香が感じられる。
●あとがき
ピート(泥炭)は日本でも分布しており、
2016年から蒸留を開始した厚岸(あっけし)蒸留所では、
地元産ピートを使う試みも始まっている。
厚岸産のピートはどのような薫りをつけるのか、非常に興味深い。


