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ハーブリキュールである『ドランブイ』を使ったカクテルは少ない。
ドランブイを使ったカクテルといえば【ラスティ・ネイル】であろう。
ラスティ・ネイルのレシピや誕生背景はもちろん、
ドランブイについても解説しよう。

●ラスティ・ネイルのレシピ
材料/レシピ
- スコッチ・ウイスキー・・・40ml
- ドランブイ・・・・・・・・20ml
- オールド・ファッションド・グラスに氷を入れる
- ウイスキーとドランブイを注ぎ、軽くステアする
非常にシンプルなレシピである。
ウイスキーとドランブイを混ぜるだけ。
ドランブイがスコッチベースなので、ウイスキーにもスコッチを使う。
スコットランドを味わい尽くせるカクテルである。
ドランブイのハーブ、スパイスの香りが心地好い。
ウイスキーがドランブイの甘味を抑えてくれるので、
ドランブイ単体では甘過ぎると感じる人にはオススメ。
●ラスティ・ネイルの誕生背景
ウイスキーもドランブイもアルコール度数が40%あるので、
ラスティ・ネイルも度数40%となる。
ゆっくりと時間をかけて味わいたいカクテルである。
ラスティ・ネイルは何度も名前が変わっている。
創作当初は『BIF』であった。
1937年にイギリス産業博覧会(British Industries Fair)での提供カクテルとして、
F.ベニマン(Benniman)によって創作された。
イギリスのウイスキーと、イギリスのリキュールを使ったカクテルである。
『BIF』はイギリス産業博覧会の頭文字。

このカクテルはいろいろな場所で、さまざまに呼ばれていたが、
1963年にドランブイ社の会長であるジーナ・マッキノンが、
ニューヨーク・タイムズ紙で『ラスティ・ネイル』を推奨したことでその名が定着した。
ラスティ・ネイル(Rusty Nail)は「錆びた釘」を意味し、液色からそう名付けられた。
しかしカクテルの色はウイスキーとさほど変わらない、、、
液色以外にも「錆びた釘」の説はある。
スコットランドのバーテンダーが無作法なアメリカ人客への復讐として、
錆びた釘をステア(混ぜる)に使っていたという説。
こちらのほうが液色よりはしっくりくる気がする。
ちなみにRusty Nailはイギリスのスラングで「頑固者」という意味がある。
また、Nailには「釘」以外にも「爪」という意味がある。
これらはカクテルにたぶん関係ないだろう。
●王家の秘酒【ドランブイ】
ドランブイは約40種のスコッチウイスキーをブレンドし、
ハーブやスパイス、蜂蜜を加えて風味付けしたリキュールである。
蜂蜜はヒースから採れたものが使われている。
ドランブイの製法は極秘で、現在も公開されていない。
若僭王と呼ばれたチャールズ・エドワード・スチュアート王子のために、
王室薬剤師が調合したリキュールがドランブイの原形である。
そのリキュールは強さと活力が得られるとし、王子は毎日愛飲していたという。

チャールズ王子がその製法をマッキノン家に伝えたのは18世紀のこと。
王位継承戦争を起こした王子は、カロデンの戦いで敗れ、スカイ島へ逃げた。
そこでマッキノン家が王子を守り抜き、忠誠への感謝として愛飲酒の製法が授けられた。
これが1746年の話しである。
100年ほど経った頃、スカイ島のホテル経営者ジョン・ロスが、
マッキノン家に頼みこみ、リキュールの提供を開始する。
ホテルの常連客がこのお酒を飲んだ時、ゲール語で絶賛した言葉が以下である。
「An Dram Buidheach(直訳:満足な飲み物)」
この言葉が『DRAMBUIE(ドランブイ)』の由来となる。
口語の意訳としては、「至福の一杯」「極上の一杯」といったところだろう。
ジョンの息子ジェームズ・ロスは1893年に「DRAMBUIE」を商標登録する。
そして、1909年にマルコム・マッキノンがドランブイを商品化する。
しかし生産量が少なく、イギリスから世界に広まり始めたのは大戦後である。
家族経営によって生産されていたドランブイだが、
2014年にウィリアム・グラント&サンズ社に買収され、現在に至る。
現在のボトルには、「Bonnie Prince Charlie(ボニー・プリンス・チャーリー)」
「An Dram Buidheach」「The Drink that Satisfies」「THE ISLE of SKYE LIQUEUR」
「SINCE 1745」などが表記されている。
●バリエーション
ラスティ・ネイルのバリエーションで有名なものを一つ紹介しよう。
ミスティ・ネイルである。
・ミスティ・ネイル
材料/レシピ
- アイリッシュ・ウイスキー・・・40ml
- アイリッシュ・ミスト・・・・・20ml
- オールド・ファッションド・グラスに氷を入れる
- 材料を注ぎ、軽くステアする
ラスティ・ネイルがスコッチなのに対して、
ミスティ・ネイルはアイリッシュとなる。
アイリッシュ・ミストはアイリッシュ・ウイスキーをベースとしたハーブ・リキュールである。
アルコール度数は35%なので、ドランブイ(40%)よりも少し低い。
ラスティ・ネイルのアイリッシュ版として創作された。
両者を飲み比べてみるのもよいだろう。
●あとがき
度数が高くて甘味があるので、ラスティ・ネイル好きな人は意外と多い。
材料となるスコッチをいろいろと試してみるのも楽しい。
スモーキなアイラ、ドランブイと縁深いスカイ、荒涼としたオークニー、
穏やかなローランドなど、スコッチは豊富にある。
シンプルなレシピだからこそアレンジの幅が広いのがラスティ・ネイルである。