文字数:約4600文字
世界でも日本でも人気のプレミアムテキーラがパトロンである。
初めて飲んだプレミアムテキーラがパトロンだったという人も多いだろう。
テキーラの種類や、蜂のデザインは何を意味するのかなど、
今も進化を続けるパトロンについて、詳しく解説しよう。

●パトロンの基本情報
- 英 字 :PATRÓN
- 創業年 :1989年
- 創業者 :John Paul Jones DeJoria(ジョン・ポール・ジョーンズ・デジョリア)
Martin Crowley(マーティン・クロウリー) - 創業地 :ハリスコ州アトトニルコ
- 製造販売:バカルディ社
- 日本取扱:バカルディ・ジャパン(株)
- NOM :1492

パトロンには蜂のデザインが描かれている。
デジョリアが海軍に所属していた時、USSホーネットに乗艦していたことから、
クロウリーがデザインした。
●パトロンの物語
パトロンはジョン・ポール・デジョリアと
マーティン・クロウリーによって生み出された。
1980年代後半、デジョリアは友人のクロウリーに
メキシコ旅行の土産にテキーラを頼んだ。
クロウリーが見つけたテキーラは素晴らしく、
デジョリアにお土産を渡す際にテキーラビジネスを提案する。
そのテキーラを造っていたのは、
シエテ・レグアス蒸留所(Siete Lefuas Distillery)である。
シエテ・レグアス蒸留所は現在も稼働している。
1989年、2人はシエテ・レグアス蒸留所に自分たちのテキーラブランドの
製造を依頼する。
現在も一つの蒸留所で複数のブランドを製造する製造委託はよく行われている。
この時に、パトロンブランドを手掛けたのがシエテ・レグアス蒸留所にいた
フランシスコ・アルカラス(Fransisco Alcaraz)である。

できあがったテキーラは背の低いボトルに瓶詰めされ、
当時の一般的に売られているテキーラの3倍以上の高価格で販売する。
しかし、実績も知名度もないため、すぐには売れなかった。
デジョリアはヘアケア関係の会社を経営しており、
そこで顧客のセレブたちにパトロンを宣伝したり、
友人で俳優のクリント・イーストウッドに勧めたりすることで、
徐々にパトロンの知名度は上がり、その味わいが広まることになる。
デジョリアとクロウリーは好調な販売を続けるパトロンの増産を考える。
しかしその計画は製造委託先であるシエテ・レグアス蒸留所に拒否されてしまう。
理由はわからいないが、シエテ・レグアス蒸留所は家族経営のため、
乗っ取られることを危惧したのではないかといわれている。

これを機に2人は自分たちの蒸留所を建設することを決意する。
2002年にアシエンダ・パトロン蒸留所(Hacienda Patrón Distillery)の建設に着工。
この時アルカラスも蒸留所設計に加わり、そして初代マスターディスティラーとなる。
蒸留所建設後の翌年、若くしてクローリーが亡くなる。
パトロンの人気は高まり続け、現在ではテキーラの販売量で首位を争うほどである。
デジョリアは2018年に保有する会社の株式をバカルディ社に売却し、
実質的にパトロンはバカルディ社のブランドとなる。
アルカラスは2020年まで責任者としてパトロンを造り続け、
2021年に75歳で亡くなる。
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●パトロンの特異な生産体制

パトロンのこだわりは、原料、つくり方、ボトル、場所などあるが、
特筆するべきは生産体制にある。
一言でいうと原点の複製(コピー)による生産である。
通常、生産量を増やす場合、生産設備を大型化する。
しかしパトロンは大型化せずに、全く同じ設備を揃えて増産する。
はっきりいって非効率である。
設備を大型化すると、新たに条件出しが必要になる。
だが、全く同じ設備なら微調整で済む。
大型化して条件が変わるとパトロンではなくなってしまうという考え方なのである。
このため、蒸留器は当初の小型のものが100基以上設置されている。
設備が多いと人手も必要なるので従業員が1800人いるという。
非効率だが、パトロンの信念なのである。
地域の雇用創出に貢献しているともいえる。
このような生産体制は他の蒸留酒メーカーでも聞いたことがない。

生産体制以外では、2つの搾汁方法を採用している点が特殊である。
パトロンでは搾汁方法をローラーミルとタオナの両方行っている。
タオナは伝統的手法で、巨大な石の車輪で踏み潰す。
ローラーミルは現代的手法で、ローラですり潰す。
パトロンの通常製品はそれぞれの搾汁液を別々に蒸留まで進め、
瓶詰め、樽詰めの時に混ぜ合わせている。
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●パトロン製品ラインナップ
日本での正規品は3種類だが、メキシコやアメリカでは限定品を含め19種類もある。
パトロンは多くの種類を取り揃えており、それは新たな挑戦を続けているといえる。
以前は日本にグランパトロンやXO Cafeも輸入されていたが、現在は入ってきていない。
日本での正規品3種を詳細説明と、現地品の興味深いものをいくつか紹介する。
以下がラインナップと参考価格(税込)、アルコール度数、容量である。
《日本正規品》
- パトロン シルバー 40% 750ml ¥ 7,500
- パトロン レポサド 40% 750ml ¥ 8,500
- パトロン アネホ 40% 750ml ¥10,000
《現地品》
- PATRÓN EXTRA AÑEJO 40% 750ml
- PATRÓN CRISTALINO 40% 750ml
- PATRÓN EL CIELO 40% 700ml
- PATRÓN EL ALTO 40% 750ml
- GRAN PATRÓN PLATINUM 40% 750ml
- GRAN PATRÓN PIEDRA 40% 750ml
- GRAN PATRÓN Brudeos 40% 750ml
- ・・・・・
・日本正規品
-パトロン シルバー

パトロン製品すべてのベースとなっているのがシルバー。
熟成をしないことで、原料であるアガベの味わいをダイレクトに味わうことができる。
スムースな飲み口がパトロンらしさを表している。
・テイスティングノート
色 :クリアクリスタル
香り :フレッシュアガベ、レモングラス、柑橘類
味わい:すっきり爽やか、ほのかにペッパー
リボン:ライトグリーン
-パトロン レポサド

アメリカ産、フランス産、ハンガリー産のオークの中古樽で
4カ月間熟成した原酒をブレンド。
ハンガリー産オーク樽は珍しいが、ワインなどで使用されている。
ブレンドの割合は非公開。
アガベの風味に、樽由来の風味のバランス良い。
・テイスティングノート
色 :ハニーゴールド
香り :ローストアガベ、オーク香、バニラ
味わい:アガベ、ハチミツ、バニラ
リボン:オレンジ
-パトロン アネホ

アメリカンホワイトオークの小樽で最低12カ月間熟成。
12カ月の熟成により樽成分によってしっかりと黄金色がついている。
アガベの風味よりも樽由来の風味のほうが強く感じられる。
スムースで丸みのある飲み口なので、ゆっくりと味わいたい。
・テイスティングノート
色 :ゴールド
香り :ベイクドアガベ、バニラ、キャラメル
味わい:アガベ、ハチミツ、ウッディ、かすかにオレンジ
リボン:ゴールド
・現地品
どの製品も日本未入荷なのが残念であるが、
パトロンがどのような製品を造っているかを知るのもよいだろう。
メキシコやアメリカなど海外で気になる製品を見かけたら味わってみよう。
PATRÓN XO Cafeは現地でも品薄だが、廃番になったわけではない。
世界的なコーヒー豆の高騰が影響しているのだろうか。
-PATRÓN EXTRA AÑEJO(パトロン エクストラ アネホ)

アメリカ産、フランス産、ハンガリー産の新樽と中古樽で、
最低36カ月間熟成した原酒をブレンド。
パトロンのスタンダード品のなかで最高クラスに位置付けられている。
リボンはレッド。
-PATRÓN CRISTALINO(パトロン クリスタリーノ)

パトロン アネホを木炭で濾過して造られる。
樽成分による色素は濾過によって取り除かれ、
パトロン シルバーのように透明になる。
香りと味わいを残しつつ、滑らかさを得るには、
高度な濾過技術が要求される。
現在のトレンドを取り入れたパトロン製品である。
-PATRÓN EL CIELO(パトロン エル シエロ)

世界初の4回蒸留した熟成なしのシルバーテキーラ。
4回蒸留は単式蒸留器で行われており、他の蒸留酒でも聞いたことがない。
伝統的なアイリッシュウイスキーは単式蒸留器での3回蒸留、
ウォッカは連続式蒸留機が使われている。
蒸留回数を増やすとアルコール度数が高まり、
風味や味わいが取り除かれていく。
瓶詰め時に度数を40%に調整しているので、他の製品と変わらない。
だが、原料の風味が減った分、
相対的にアルコールの風味を感じやすくなっている。
蒸留回数が増えると蒸留液が減るためなのか、シエロの容量は700mlである。
パトロンが究極の滑らかさを追求して試行錯誤した製品がシエロである。
飲んだ人の評価はわかれているが、一度試してみる価値はある。
ちなみにCIELOは「空、天、天国など」を意味し、英語ではSKY。
-PATRÓN EL ALTO(パトロン エル アルト)

この製品はエクストラアネホ、アネホ、レポサドをブレンドしたもの。
ブレンドによって香りと味わいを極限まで高めることに成功した。
ALTOは「高い、高位、上位など」を意味し、英語ではHIGH。
ボトルも高級感があり、エクストラアネホよりも高価格である。
-GRAN PATRÓN PLATINUM(グランパトロン プラチナ)

以前は日本にも輸入されていたが、現在は入荷待ち状態。
3回蒸留により、滑らかでエレガントな味わいを実現した。
蒸留後はオークタンク(木桶)で30日間寝か(熟成さ)せることで上品さをまとわせる。
ボトルキャップはプラチナ(白金)をイメージした球体がデザインされている。
パトロン シルバー、グランパトロン プラチナ、パトロン エル シエロを
飲み比べることで、蒸留回数の違いを楽しむのもよいだろう。
-GRAN PATRÓN PIEDRA(グランパトロン ピエドラ)

ピエドラはタオナ(巨大な石の車輪を使う方法)による搾汁液のみを使って造られる。
伝統的な方法であり、手間も時間もかかる。
フランスのリムーザンオーク樽と、アメリカンオークの新樽で
4年間熟成したエクストラアネホである。
ボトルキャップと化粧箱には石の車輪がデザインされている。
PEDRAは「石、石ころ、岩石など」を意味し、英語ではSTONE。
-GRAN PATRÓN Brudeos(グランパトロン ブルデオス)

ブルデオスはアメリカンオークの中古樽と
フレンチオークの新樽で12か月間熟成し、
フィニッシュにボルドーのワイン樽で仕上げている。
ボトルキャップはパトロンの象徴である蜂が造形されている。
Brudeosはスペイン語でブルゴーニュを意味する。
●あとがき
パトロンはよくドン・フリオと比べられる。
製品の発売もパトロンは1989年、ドン・フリオは1987年であり、
両製品とも背の低いボトルを採用している。
また、販売量でも一、二位を争っている。
パトロンもドン・フリオもテキーラ業界に革新を起こし続けている。
これからもテキーラの進化が楽しみである。