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ポットスチルとは、蒸留酒を造る際に使われる単式蒸留器である。
銅製の釜とネックを持つ独特の形状が特徴で、
形や構造の違いによってお酒の風味に影響を与える。
ウイスキー造りの象徴的存在であるポットスチル。
ウイスキーを表すアイコンとしてポットスチルが描かれることも少なくない。
ここではポットスチルの基本的な説明をしよう。
ウイスキーの製造工程については、
ウイスキーのつくり方で詳しく解説している。
●ポットスチルとは

モルトウイスキーの蒸留に使用する単式蒸留器のこと。
ウイスキー造りでは、材質は主に銅が使われ、手造りされている。
焼酎造りでは、ステンレス製の単式蒸留器がよく使われている。
初期の頃は、銅が加工しやすかったという理由だが、
最近では銅が香りに与える影響を、科学的に解明されてきている。
蒸留の際に蒸気が銅イオンと接触すると、不快な成分が除去される。
使い続けるうちにポットスチルは薄くなり、
少しの衝撃で穴が空いてしまうようになる。
通常、モルトウイスキーは単式蒸留器で2回蒸留されるが、
初留器と再留器の形を変えることもよくある。
1回目の蒸留(初留)ではアルコール度数は20%程度。
2回目の蒸留(再留)で、アルコール成分が凝縮され、原酒となる。
●ポットスチルの種類と形状
種類は形状や大きさ、加熱方法、ラインアームの取り付け角度など様々。
形状としては大きく分けて3種類ある。
- ストレート型
- ランタン型
- バルジ型(ボール型)

・ストレート型
ストレート型のポットスチルは、
ネックがまっすぐに伸びたシンプルな形状を持つ蒸留器である。
- 蒸留釜からまっすぐにヘッドが伸びている
- 抵抗なく蒸気が上昇するため、複雑で力強い味わいとなる
・ランタン型
ランタン型のポットスチルは、
ランタンのように丸みを帯びた形状を持つ蒸留器である。
- ヘッドの付け根がくびれている
- 蒸気の通り道が狭められることで軽い香味成分が上昇し、ライトな味わいになる
・バルジ(ボール)型
バルジ型のポットスチルは、
ネックの途中に膨らみを持つ形状が特徴の蒸留器である。
- ヘッドの付け根が膨らんでいる
- バルジ(ボール)部分で蒸気が滞留して蒸留釜に戻り、再度上昇する
- 重い香味成分は上昇できず、クリアな味わいになる
形状以外にも風味・味わいに影響を与えるものはある。
サイズが大きいほど軽い味わいに、小さと重い味わいになる。
また、ラインアームが長く上向きなら軽く、短く下向きなら重くなる。
加熱方法は直接加熱だと香ばしく、間接加熱だとすっきりした味わいになる。
『ポットスチルウイスキー』については、
アイリッシュウイスキーの種類で詳しく解説している。
近年では従来の形状分類に加えて新しいタイプのポットスチルも登場している。
・歴史を変えるかも?鋳造ポットスチルZEMON(ゼモン)

鋳造ポットスチルは、従来の鍛造ではなく鋳造によって成形された蒸留器であり、
耐久性や加工精度の向上が期待される新しい技術である。
2018年に富山県の技術を集結させて、世界初の鋳造ポットスチルが開発された。
三郎丸蒸留所、(株)老子製作所、富山県産業技術開発センターの共同開発。
鋳造ポットスチルは従来の鍛造ポットスチルと違い、様々な特徴がある。
- 高寿命:鍛造では難しい肉厚を実現し、寿命の長期化
- 高品質:同じ鋳型を使うことで、高い再現性を実現
- 短納期:鋳型を造り、液体金属を流し込むことで鍛造よりも速い
- 省エネ:純銅に比べて青銅(銅錫合金)は熱伝導率が約1/8で、熱が逃げにくい
- 香味増:凹凸のある鋳肌で蒸気との接触面積が増加
ZEMON(ゼモン)という名前は、
老子製作所の屋号である老子次右衛門(おいごじえもん)に由来。
製造業ではQCD(Q品質、Cコスト、D納期)が重視されるが、
ZEMONは従来のポットスチルよりすべてで優れている。
納期においては、海外メーカーだと通常納期で約1年(輸送に時間と費用が発生)、
国内だと8カ月程かかるが、ZEMONは鋳型造りを入れて約6カ月。
すでに鋳型があれば約4カ月で製造可能という。
従来のポットスチルとは異なる製造方法として注目されているが、
一般的なウイスキー製造の主流ではない。
しかし鋳造のメリットがこれだけあれば、ウイスキーや他の蒸留酒製造で
今後多くの蒸留所が採用する可能性がある(特に新設される蒸留所)。
蒸留の役割については、
ウイスキーの定義でも基礎から解説している。
●あとがき
ポットスチルがまだ小型だった蒸留初期は鋳造品があったかもしれない。
しかし大型を造るには高い技術力が必要になる。
老子製作所は梵鐘(お寺の鐘)を作製してきた実績の技術力がある。
そしてポットスチルを鋳造しようという発想が素晴らしい。
大きな鐘ならイギリスのビッグベンなどあるが、スコットランドやアイルランドは
ウイスキーの歴史や伝統に縛れてこの発想がなかったのか、疑問だ。


