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世界的なブームが起きると例外なくその商品の販売量は増加する。
当然ジンもこの限りである。
では世界でもっとも飲まれているジンはなんなのだろうか。
イギリスのDrinks Internationalのデータをもとにジンの販売量(売上)をまとめた。
さっそくランキングをみてみよう。
まとめたデータをお求めの方はこちら。
●ジンの販売量ランキング

データは2024年の販売量(売上)である。
単位は百万ケースで、1ケースは9リットル換算。
このデータにエントリーできるのは百万ケースを超えた商品のみである。
1位はダントツで2位と5倍以上の差をつけている。
単独で2位が続き、3,4,5位は混戦である。
少し離されて6位、その下の7,8,9,10位も混戦状態である。
ジンの販売量推移と各ブランドについて解説しよう。
●ジンの販売量推移

2012年からの販売量推移である。
1位のジンが圧倒的なので、縦軸を右側に独立した。
2位以下は左側の軸である。
・1位 Ginebra San Miguel(ヒネブラ・サン・ミゲル)

1位に君臨し続けているのがGinebra San Miguelである。
フィリピンの総合酒類メーカーであるGinebra San Miguel社の看板商品である。
日本では知る人ぞ知るジンだが、1834年から製造されており、190年以上の歴史を持つ。
フィリピンビールの「San Miguel(サンミゲル)」は聞いたことがある人もいるだろう。
ジン、ビールの他にもラム、ブランデー、ウォッカ、ワインも扱っており、
フィリピン国内で知らない人はいないほどの大手メーカーである。
毎年販売量を伸ばしており、右肩上がりである。
日本への輸入がないのでピンとこないかもしれないが、
Ginebra San Miguelは全スピリッツ(蒸留酒)の中でもNo.2の販売量を誇る。
その勢いはどこまで続くのか、追いつけるブランドは現れるのか、注目である。
ちなみにGinebraはスペイン語で「ジン」を意味する。
つまりGinebra San Miguelは「サン・ミゲル社」のジンということである。
・2位 Gordon’s(ゴードン)

日本でもおなじみのGordon’sが2位である。
単独でトップを追うが、その差は開く一方である。
1769年からイングランドで製造されている。
王室御用達のロイヤルワラントを4つも得ている由緒正しきブランドである。
ジントニックの誕生時に使われたジンがゴードンだといわれている。
猪がトレードマークのゴードンの猛進はまだまだ続きそうだ。

・3位 Bombay(ボンベイ)

僅差で3位を勝ち取ったのはBombayである。
毎年タンカレーと激しい3位争いをしている。
水色のボトルが美しい「ボンベイ・サファイア」はバーでもよく目立つ。
Bombayの販売量は、ボンベイ・サファイア、ボンベイ・ドライ、
スター・オブ・ボンベイなどのボンベイシリーズの総合販売量である。
創業は1761年のイングランドである。
1831年の蒸気抽出法(ヴェイパー・インフュージョン)の開発や、
1987年のボンベイ・サファイアの発売時にボタニカルの公開など、
業界に革新を起こし続けてきた。
2年連続の販売量減少を、どう巻き返すのか見届けよう。

・4位 Tanqueray(タンカレー)

Bombayと熾烈な3位争いを続けるTanquerayは今回4位である。
誰もが知る緑のボトルは世界中のバーで見かけることができる。
1830年にイングランドで創業したタンカレーは、
創業当時のレシピを守り、4つのボタニカルしか使っていない。
タンカレーは2位のゴードンとも繋がりがある。
創業者チャールズ・タンカレーは20歳の時に、
ゴードンの創業者アレクサンダー・ゴードンからアドバイスを受けて、
ロンドンのブルームズバリーに蒸留所を設立する。
創業当時の蒸留器はゴードン社の中古を買い取ったものだったとされている。
販売量でゴードンに追いつくにはまだ先になりそうだ。


・5位 GSM Blue(GSMブルー)

販売量を急増させているのがGSM Blueである。
気付いている人もいるだろうが、GSMはGinebra San Miguelの頭文字である。
つまり、GSM Blueはサンミゲル社のセカンドブランドである。
GSM Blueはライトユーザー向けのジンである。
度数は27.5%で、焼酎(20%)以上、泡盛(30%)以下という感じである。
さらにフレーバーものもある。
モヒート、マティーニ、マルガリータ、ポメロ(文旦のような柑橘類)など。
これらはさらに度数が低く、17.5%である。
成長を続けるフィリピンの若者も取りこぼさない戦略はさすがである。
GSM Blueの販売量がボンベイやタンカレーを抜く日も近いのかもしれない。
・6位 Beefeater(ビーフィーター)

遂にGSM Blueに抜かれてしまったBeefeaterが6位である。
ラベルに描かれているのはロンドン塔を護る衛兵。
この衛兵が牛肉Beefを食べていたEatことからBeefeaterと名付けられた。
1820年に創業し、品質の高さと伝統の味を守り続けている。
GSMと同様に、フレーバードジンも展開しているが、
イギリスのライトユーザーの反応はイマイチのようだ。
この先、GSM Blueとの差は広がるかもしれない。
伝統を守りつつ、攻めの戦略を改める必要がある。

・7位 Seagram’s(シーグラム)

北米を中心に販売を続けるSeagram’sが7位である。
Seagram’sの販売量は緩やかな減少を続けている。
カナダのシーグラム社が1939年にアメリカで生産販売を開始。
会社はペルノ・リカール社に買収されたが、アメリカで生産を続けている。
日本には輸出していない。
シーグラムもフルーツ系のフレーバードジンを複数手掛けている。
スイカ、パイナップル、ピーチ、ライム、メロン、リンゴ、ブドウなど。
アメリカ人が好きそうなフレーバーである。
ジンブームといわれる昨今でも、販売量の減少が止まらないのは深刻である。
このままずるずると減少を続けるのだろうか。

・8位 Barrister(バリスター)

Barristerはロシア産のジンである。
ロシア産のジンというのは日本ではなかなか珍しい。
Barristerは2017年にロシアの酒類メーカーLadoga社が発売した。
ベーススピリッツにはロシア産の穀物を使っている。
Ladoga社はジン以外にも、ウォッカやコニャックなどを手掛けている。
日本では8種類のBarristerが販売されている。
2017年に販売を開始して、わずか6年で百万ケースを超えるのは、
凄まじい成長速度である。
輸出規制によってロシア国内に他国のジンが入らなくなったこともあり、
国産ジンの需要が国内で高まっているのだろう。
ちなみにBarristerは英語で、意味は弁護士、代弁者である。
・9位 Larios(ラリオス)

日本ではあまり見かけないが、スペインで人気のジンがLariosである。
スペインでもっとも飲まれており、販売量に安定感がある。
ジブラルタルの北東に位置する港町マラガで1866年から造られている。
野生のジュニパーベリーや、地中海の素材にこだわりがある。
以前はシンプルなデザインだったが、2010年代にデザインを刷新したことで、
多くの注目を浴びた。
長年家族経営だったが、何度かの売却が繰り返され、
現在はSuntry Global Spiritsの傘下に入っている。
日本へは輸出されていない。
・10位 Gilbey’s(ギルビー)

日本でも認知度の高いギルビージンが10位である。
イングランドで1872年から製造されている歴史なるブランド。
日本向け商品は韓国の蒸留所でライセンス製造されたものだったが、
近年はイギリスでの製造に変更されている。
スーパーやコンビニでも見かけるジンで、手に取りやすい。
日本ではもっとも身近なジンの一つである。

・ - Hendrick’s(ヘンドリックス)

前年8位だったHendrick’sから2024年のデータ提供がなかった。
徐々に販売数を伸ばしてきていたので、気になるところだ。
Hendrick’sに限らず、オーナーであるWilliam Grant&Sonsの製品全てのデータがない。
Hendrick’sは1999年からスコットランドで造られているジンであり、
バラとキュウリがコンセプトである。
プレミアムジンの先駆け的な存在であり、日本でもよく飲まれている。
発売当初から他のジンとは一線を画しており、
個性的な香りと味わいで徐々にファンを増やしていった。
次回はデータが出てくるのだろうか。
まとめたデータをお求めの方はこちら。

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●あとがき
ランキングに登場したジンは、どれも定番であり、
カクテルのベースとしてよく使われる。
定番カクテルで使われるジンに選ばれることが販売量に大きく影響する。
これらのジンはクラフトジンと違ってストレートで飲まれることは少ない。
今後も各メーカーの戦略に期待したい。