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シャンパンは「熟成」「原料」「色」「糖度」という
4つの視点から種類が分かれ、それぞれが味わいに大きな違いを生む。
ここでは、ブラン・ド・ブランやブラン・ド・ノワールといった
原料ブドウによる分類から、ロゼ/白などの色の違い、
さらにはドザージュ(糖度)や熟成期間まで、
シャンパーニュの公式なタイプを体系的に整理して解説する。
種類を理解することで、ラベルの読み解きや
スタイルの選び方が一段と簡単になるだろう。
シャンパンの基礎を正確に押さえたい人にも、
購入・テイスティングの判断基準を知りたい人にも役立つ内容となっている。
●シャンパーニュの種類は大きく4つで分類される

シャンパンは一見シンプルな発泡ワインに見えるが、
実際には「熟成期間」「原料ブドウ」「色」「糖度」という
4つの軸で細かく分類される。
これらの違いは、香り・味わい・質感・熟成ポテンシャルに直接関わり、
シャンパンの個性を決定づける要素である。
以下では、それぞれの分類軸を体系的に整理する。
- 熟成期間(ノン・ヴィンテージ/ヴィンテージ)
- 原料(ブラン・ド・ブラン/ブラン・ド・ノワールなど)
- 色(白/ロゼ)
- 糖度(ドザージュ)
①熟成期間による分類(NV/ヴィンテージ/キュヴェ・プレスティージュ)

シャンパンの熟成は、味わいの複雑さや泡のきめ細かさに直結する。
熟成期間は法律で最低基準が定められており、これにより大きく3つに分類できる。
- NV(ノン・ヴィンテージ)
毎年の収穫年が異なるワインをブレンドした、もっとも一般的なタイプ。
最低熟成期間は15カ月。
フレッシュさと一貫した味わいを重視する。
メゾンによっては「マルチ・ヴィンテージ」と呼ぶ場合もある。 - ヴィンテージ(ミレジメ[Millésimé])
優れた年だけに造られる単一年のシャンパン。
最低熟成期間は36カ月。
風味は力強く、熟成による深みが出やすい。
ラベルには収穫年が表記される。 - キュヴェ・プレスティージュ[Cuvée Prestige]
メゾンが最高品質として位置づける特別なキュヴェ。
熟成期間は5~10年、あるいはそれ以上も珍しくない。
香り・質感ともに最上位の複雑さを備える。
ほとんどがヴィンテージだが、ノン・ヴィンテージもある。
・熟成期間がもたらす主な違い
- 短期熟成:爽快、フレッシュ、柑橘系中心、軽快な泡
- 長期熟成:ブリオッシュ、ヘーゼルナッツ、ハチミツなどの熟成香が出やすい
- 泡の質感:熟成が長いほど“クリーミーで細かい”泡になる
②原料ブドウによる分類(ブラン・ド・ブラン/ブラン・ド・ノワール/ブレンド)

シャンパンは、主に3つのブドウ品種
(シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ)を中心に造られる。
ピノ・ノワールとムニエは黒ブドウ、シャルドネは白ブドウである。
原料ブドウの組み合わせは、味わいの方向性を決める重要な要素であり、
次のように分類される。
- ブラン・ド・ブラン[Branc de Brancs](白ブドウのみ)
主にシャルドネ100%で造られる。
ミネラル感、柑橘の香り、伸びのある酸が特徴。
直訳「白の白」、「白ブドウで造る白ワイン」の意味。 - ブラン・ド・ノワール[Branc de Noirs](黒ブドウのみ)
ピノ・ノワールやムニエを用いる。
果実味が豊かで力強く、骨格のある味わいになる。
直訳「白の黒」、「黒ブドウで造る白ワイン」の意味。 - ブレンド(白ブドウと黒ブドウのブレンド)
もっとも一般的なタイプで、3品種のバランスを整えながら、
メゾンらしいスタイルを表現する。
③色による分類(ブラン/ロゼ)

シャンパンは外観の色によってもタイプが分かれる。
- ブラン[Blanc](白)
白ブドウからも黒ブドウからも造られる。
澄んだ淡い黄金色が特徴で、もっとも一般的なスタイル。 - ロゼ[Rosé]
赤系果実の香りが加わり、華やかな印象を持つ。
ロゼには2つの製法がある。
①黒ブドウの果皮を短時間浸漬して色を抽出する「セニエ」
②完成した白ワインに少量の赤ワインをブレンドする「アッサンブラージュ」
④糖度(ドザージュ)による分類(辛口〜甘口)

シャンパンの甘辛度は、澱抜き(デゴルジュマン)後に補填する
「門出のリキュール(=ドサージュ)」の量で決まる。
添加する糖分の量によって、
味わいはドライ(辛口)からスイート(甘口)まで大きく変化する。
これはラベル表記にも反映され、選ぶ際の重要な指標となる。
代表的な分類は以下のとおりである。
| 表示 | 含有糖度 | 甘辛口 |
|---|---|---|
| ブリュット・ナチュール [Brut Nature] | 0〜3g/L | 極辛口。 ピュアでシャープな味わい。 |
| エクストラ・ブリュット [Extra Brut] | 0〜6g/L | 超辛口。 食事に合わせやすい。 |
| ブリュット [Brut] | 0〜12g/L | 辛口。 世界で最も主流。 バランスが良く万能。 |
| エクストラ・ドライ [Extra Dry] | 12〜17g/L | やや辛口。 実際にはやや甘め。 ふくよかな果実味が特徴。 |
| セック [Sec] | 17〜32g/L | やや甘口。 口当たりに甘さが感じられ、 デザートにも対応。 |
| ドゥミ・セック [Demi Sec] | 32〜50g/L | 甘口。 濃厚な味わい。 |
| ドゥー [Doux] | 50g/L以上 | 極甘口。 現在は珍しい。 |
ブリュット・ナチュールは、
「パ・ドゼ[Pas Dosé]」「ドザージュ・ゼロ[Dozage Zéro]」と
呼ばれることもある。
辛口ほどシャープでキレのある味わいになり、
甘口ほど丸みと柔らかさが際立つ。
シャンパンが誕生した頃は甘口がスタンダードだったが、
19世紀中頃にイギリスの辛口嗜好に対応して以来、
辛口が主流となり現在に至る。
甘口よりも辛口のほうが食事に合わせられる。
また、甘口をデザート感覚で飲まれるよりも、
辛口を食事と一緒に飲まれるほうが消費量が増えるので、
生産者とって商売としては辛口のほうが都合が良いのである。
●シャンパンの「生産者分類」という別の視点

シャンパンの種類は、熟成期間・原料・色・糖度によって大きく分類されるが、
もう一つ理解しておくと役立つ軸がある。
それが 「生産者の形態による分類」 である。
これは味やスタイルを直接示すものではないが、
どのような造り手が、どのような体制で、
シャンパンを造っているかを読み解くための重要な情報で、
ラベルにも必ず表記されている。
この生産者分類を知っておくと、
- 大手メゾンによる安定感ある味わいなのか
- 小規模生産者による畑の個性が濃い一本なのか
- 協同組合によるコスパ重視のスタイルなのか
といった違いが見えてくるため、シャンパン選びがより明確になる。
シャンパンの味を決める主な要素は「使用ブドウ」と「製法」だが、
「誰がどの体制で造ったか」という視点を加えることで、
同じブラン・ド・ブランや、同じブリュットでも、
まったく異なる表情を理解できるようになる。
その意味で、生産者分類は種類とは別軸でありながら、
シャンパンを深く楽しむための大切な手がかりとなる。
・シャンパンの生産者分類(RM・NM・CM・RC・SR・MA・ND)

シャンパンのボトルには、必ず生産者の形態を示すアルファベットが記載されている。
これは誰がブドウを栽培し、誰が醸造し、どのような体制で販売しているか
を示すもので、造り手のスタイルや規模を知る手がかりとなる。
以下はラベルに記載される生産者7区分の一覧表である。
| 略 | 読み | アルファベット | 意味 |
|---|---|---|---|
| NM | ネゴシアン・マニピュラン | Négociant Manipulant | 卸売業者 兼 醸造業者 |
| RM | レコルタン・マニピュラン | Récoltant Manipulant | ブドウ栽培業者 兼 醸造業者 |
| CM | コオペラティヴ・ド・マニピュラシオン | Coopérative de Manipulation | 生活協同組合 |
| RC | レコルタン・コオペラトゥール | Récoltant Coopérateur | ブドウ栽培業者 兼 協同組合員 |
| SR | ソシエテ・ド・レコルタン | Sosiété de Récoltant | ブドウ栽培業者団体 |
| MA | マルク・ダシュトゥール | Marque d’Acheteur | レストランやホテルなどのプライベートブランド |
| ND | ネゴシアン・ディストリビュトゥール | Négociant Distributeur | 卸売業者 兼 流通業者 |
シャンパンメゾンは約5000件ほどあるが、
NMは250~280くらいで一割にも満たず、大多数がRMである。
しかし、生産量ではNMが総生産量の約七割を占めるとされる。
さらに、NMの輸出量の全体の約九割に達する。
つまり、フランス国外で見かけるシャンパンの大半がNMということになる。
①NM(Négociant Manipulant:ネゴシアン・マニピュラン)
自社ブドウ、または他の生産者からブドウを買い付けて、
自社で醸造・出荷まで行う。
大手メゾンの多くが該当。
- 大量生産が可能で品質が安定
- ハウススタイルを毎年維持しやすい
- 王道のブランドが多い
「一貫した味わい」を求める人に向く。
②RM(Récoltant Manipulant:レコルタン・マニピュラン)
自社畑で栽培したブドウを使い、自ら醸造・販売まで行う。
個人、または法人の小規模生産者。
- テロワールの個性が強く出る
- 味わいが個性的でキャラクターがはっきり
- 生産量は少ないがファンが多い
“RMシャンパン=生産者の顔が見える一本”といえる。
多くのRMでは自社畑のブドウを100%使用しているが、
規則では収穫量の5%までは他からブドウを購入してもよいことになっている。
③CM(Coopérative de Manipulation:コオペラティヴ・ド・マニピュラシオン)
複数の栽培農家が共同で醸造・販売を行う組合スタイル。
- 高コスパのシャンパンが多い
- 農家のブドウを効率よく活用
- 大規模協同組合は品質が安定
身近で手に取りやすいタイプ。
④RC(Récoltant Coopérateur:レコルタン・コーペラトゥール)
自社畑のブドウで造るが、醸造だけ協同組合(CM)に委託し、
自社の名前で販売する形態。
- RMほどの個性は出ないが、畑の特徴は反映
- 生産者の工夫が光る“隠れた良作”も多い
⑤SR(Société de Récoltants:ソシエテ・ド・レコルタン)
複数の栽培農家が共同で醸造・販売を行う小規模グループ。
- CMより小規模で、個性が出やすい
- 地域単位の協力生産体制といったイメージ
独自性+安定感がある中間的ポジション。
⑥MA(Marque d’Acheteur:マルク・ダシュトゥール)
レストラン、ホテル、スーパーなど小売店や企業などが、
自分たちのブランド名で販売するためにメゾンに製造を依頼するOEMスタイル。
- 実質的にはOEMシャンパン
- 百貨店やワインショップのオリジナルブランドがこれにあたる
- 内容は生産者次第で幅が広い
⑦ND(Négociant Distributeur:ネゴシアン・ディストリビュトゥール)
ワイン商や卸売業者が、
既に出来上がった製品(瓶詰めされたシャンパン)を他社から買い、
自分のラベルを貼って販売する。
- 製造には関わらず、流通主体
- 生産は行わず、ブランディング・販売・流通に特化
MAとNDは同じように思えるかもしれないが簡単に例えると、
MAはイオンのトップバリュー(PBブランド)、
NDはエノテカやモトックス(ワイン商の自社ブランド)
という感じである。
・シャンパンの生産者分類まとめ

これらの生産者分類は「味の種類」ではないが、
同じカテゴリーのシャンパンでも、造り手の体制で個性が
大きく変わるという重要な指標である。
- 王道で安定感を求めるなら NM
- 個性を楽しみたいなら RM
- コスパを重視するなら CM
- 探究心があるなら RC・SR
- 気軽に選ぶなら MA、ND
というように、選ぶ際の視点が広がる。
7つも区分があると混乱しやすいので、簡単な表にまとめた。
| 区分 | 主体 | 製造責任 | ラベル主体 |
|---|---|---|---|
| NM | 大手 | 自社 | 自社 |
| RM | 農家 | 自社 | 自社 |
| CM | 協同組合 | 組合 | 組合/共同 |
| RC | 農家 | 組合 | 自社 |
| SR | 複数農家グループ | 共同 | 共同 |
| MA | 買い手(ホテル等) | 委託 | 買い手 |
| ND | 流通業者 | 他社製品 | 流通業者 |
●シャンパンの種類【まとめ】

ここまでの話しを簡潔にまとめよう。
①熟成・製法によるスタイル
造り手の哲学が出る軸。
- ノン・ヴィンテージ(NV)
→ 年ごとの味の差を抑え、安定したハウススタイル - ヴィンテージ(ミレジメ)
→ その年の個性を反映、熟成深め - プレステージ・キュヴェ
→ 最高区画・最高技術で造られる最上位 - 長期熟成
→ ナッツ・トースト香、複雑さアップ
②原料と色の違いによる分類(ブドウ品種構成)
味や香りの方向性を左右する軸。
- ブラン・ド・ブラン(白ブドウ100%/シャルドネ主体)
→ すっきり・ミネラル感・エレガント - ブラン・ド・ノワール(黒ブドウ100%/ピノ・ノワール/ムニエ)
→ 力強い・コク・厚み - ブレンド
→ バランス型・ハウススタイルを表現 - ロゼ・シャンパン
→ 食事との相性幅が広く、華やか
③甘辛度(ドサージュ)による分類
シャンパンの味わいの基本軸。
辛 口 ブリュット・ナチュール
↑ エクストラ・ブリュット
│ ブリュット
│ エクストラ・ドライ
│ セック
↓ ドゥミ・セック
甘 口 ドゥー
④造り手による分類
「誰が造ったか」を理解しやすくなる別軸。
- NM(Négociant-Manipulant)
→ 大手メゾン。ブドウを買い集め、多様なスタイルを大量生産 - RM(Récoltant-Manipulant)
→ 自社畑のブドウで自ら醸造する“ドメーヌ型” - CM(Coopérative de Manipulation)
→ 組合型。複数農家のブドウをまとめて造る - RC、MA、NDなど(補助的分類)
→ 自社ラベル販売など細かな区分
◎総合的な見方
- 基本の味わい → 甘辛度
- キャラクターの方向性 → 原料・品種構成
- 品質の格・個性 → 熟成や製法
- 誰の哲学か → 生産者区分(NM/RM/CM、、、)
これらを重ねて理解することで、
シャンパンの「全体像」が立体的に把握できる。
シャンパンは、熟成期間・原料・色・糖度という4つの軸と、
造り手による分類で多様なスタイルが存在する。
それぞれの違いは、香りの方向性、味わいの強弱、料理との相性に大きく影響する。
さらに近年は、単一畑や単一品種、樽発酵、ドザージュの有無など、
造り手の哲学を反映した細分化スタイルも増え、
シャンパンの世界はより奥深く、個性的になっている。
これらの分類を知っておくと、
- 自分好みのシャンパンを見つけやすくなる
- ラベル表記の意味が理解できる
- 同じメゾンでもキュヴェごとの個性が読み取れる
など、選ぶ楽しみが大きく広がる。
シャンパンは単なるスパークリングワインではなく、
原料・製法・熟成の組み合わせで無限の表情を見せる一本である。
分類の仕組みを理解しながら飲み比べることで、
シャンパンの魅力はさらに深まるだろう。
ちなみに、日本でもっとも見かける種類は、
NMのNVの白ブリュットである。
●あとがき
ただ何気に飲むだけなら種類を気にすることもないだろうが、
もっとシャンパンを楽しみたいと思うなら種類を知ることは大切である。
種類の知識を得れば、ラベルの意味がわかるようになり、
より面白く感じるようにだろう。


